『嘘つきチョコレート』
──そう筆記体の文字で書かれた紙箱が目に止まった。
悪戯グッズのひとつだろうか、と物思いにふける。
残業が日常になりつつある繁忙期
胃を酒で満たすのも疲れるほどの疲労を抱え
かと言って まっすぐ帰宅するのも気が進まないこの頃。
気まぐれで立ち寄っただけの埃臭い古書店で
帰りがけに まさか自分の興味を惹く品があったとは。
手のひらサイズの箱は意外と薄手の柔い素材で、
手に取ってみるとほんのりカカオの香りが漏れていた。
本当に売り物なんだろうか。
値札を探そうとして箱を裏返すと、
潰れた手書きのインク文字で小さく何か書いてある。
『隠し事を秘めた貴方へ』
思わず苦笑する。
確かに俺はこのチョコレートにふさわしい嘘つきだ。
この嘘に値段など つけられまい。
[気まぐれ] で毎日通ったこの店は、そして [彼女] は
とうの昔に見抜いていたのだ。
迷わずチョコレートをレジまで持って行き、
待ちくたびれたような顔をした [彼女] と目が合う。
「──もう、嘘はつけませんね」
そう微笑んだ [彼女] の後ろで
木製の大きな時計が0時を回るのが見えた。
言い訳がましく長い俺のエイプリルフールは
どうやらもう終わりらしい。
2023/04/01【エイプリルフール】
4/1/2023, 6:43:26 PM