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細い手がするりとカップを取って、紅茶の湯気の温かさを小さな鼻先で確かめ、少しだけ口にして美味しいと笑う。

おいしいわね、このお茶はなんというお茶?
ダージリンですね。今朝届いたばかりの新しい茶葉で、インドで作られたものです。

なんということのない会話。
まだ茶葉の名前も覚えていない、いとけない彼女の質問はこう続く。

へえ、じゃあこのお茶は、どんな色をしているの?

待ち受けていた私は手に持っていた辞典を開く。

小豆色……いや、褐色でしょうか。橙が濃く、鮮やかです。秋摘みの紅茶ですので、春のものより濃く、味が強くでるのです。

褐色、褐色。

彼女は口の中で言葉を繰り返し、思い出そうとするように目をまたたかせた。私の方に顔が向けられる。

それって、私の髪の色と同じ?
ええ、お嬢様の方が少し軽やかで色が薄いですが。
なら、私は今、じぶんとおなじ色の紅茶を飲んでいるのね!

大発見のように喜ぶ彼女のその目は、紅茶のカップを正確には覗き込んでいない。

そうだ、私の服は今日はどんな色? いつもとおなじ青色?

彼女の問いは矢継ぎ早に続く。
私は彼女の世界に少しでも彩りをつけるべく、辞典をめくった。

#無色の世界

4/18/2023, 11:30:07 PM