かばやきうなぎ

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はなればなれ




前に進もうとして袖をくいっと引かれた。
ふと振り向くと小さな弟のつむじが見える。

兄弟は全て愛しいが、末の弟は特に目に入れても痛くない。何をしたとしても愛しいし、なんだってしてやれる。己の命すら惜しくない、それを弟が何より嫌がると分かっているとしても。

『ねぇ、どこ行くの?』

握られた袖に皺が寄っている。
そんなに力一杯握らなくても大丈夫。
決して離さないと言外に訴えるように握られた拳に手を添える。

怯えなくても大丈夫。
何処にだって行かない。いつもお前のそばに居る。
添えた手で力の籠る拳を、愛おしむ様に名残惜しい様にそっと撫でる。

目が合わない、下ばかり見つめる弟が愛おしい。
出来れば顔が見たいけれど彼はきっと顔を上げないだろう。出来れば自分も顔を見られたくない。いま、とてもみっともない顔をしているだろう。
兄としての矜持は、最愛の弟に情けない顔を見せる事を許さない。笑っていたかった。頼り甲斐がある、支えていられる。かっこいい、そんな兄で居たい。
ちっぽけすぎる些細で大切なプライドだった。

忘れないで。
ずっと一緒だ。

伝わるだろうか。
それだけが望みだった。






目が覚めたらまだ早朝だった。
久しぶりに懐かしい人の夢を見た。

懐かしすぎて言葉が見つからなかった。

夢だと何処かでわかっていたのに、溢れた気持ちに戸惑って結局は袖を掴む以外出来なかった自分に苦笑する。

せっかく会えたのに。
会いにきてくれたのに。

覚えているのは手の温かさ。
夢だと言うのに記憶と少しも変わらない。
持ち主を現すような温かで慈しみばかり向けられた優しさに目頭が熱くなる。

忘れない。
ずっと一緒だ。

伝わるだろうか。
たとえもう会う事が出来なくても。

11/16/2024, 1:14:37 PM