かも肉

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作品1 飛べない翼

 
 彼女は空を飛べなかった。ただ一人、翼を持っていないからだ。いつも一人、海辺で歌を歌っていた。その歌声はハッとするほど奇麗だった。
 頭のいい人達は彼女に近づくな、その声を聞くなと、僕らにいつも言っていたが、僕は彼女のそばにいて、歌を聴いていたかった。
 その思いは日に日に膨れ上がった。
 そしてナイフを手に取り……

 この日、僕は、永遠に彼女の隣にいるために、飛べない翼を持ったただの人となった。
 彼女の隣に行くと、彼女は少し驚いたあと僕に笑いかけ、あの声で歌を歌ってくれた。
 しばらくすると立ち上がり、海の方へ歩いていった。少し変な歩き方だ。僕もついていった。
 彼女は海に潜った。僕も潜った。気づくと彼女の足がなくなっていて、そのかわり魚の尾がついていた。なぜか僕は酔っ払ったみたいに、何も考えられなくなっていた。彼女が口を開けた。意識が崩れた。
 最期に思い出したことは、あの歌は人魚だけが歌うらしいということだ。

11/11/2024, 4:07:11 PM