『貝って昔はお金として使われていたことを知ってる?』
物知りなあなたは、私にそう教えてくれた。
ちょうどこのくらいの季節に。
「へー、初めて知った。」
一つの貝殻を拾って、眺める。
「だから、“貨幣”とか、“購入”みたいにお金に関する漢字に貝が使われてる。」
あなたは、私が食いついてくれたことが嬉しかったのか、鼻高々に付け足す。
「なるほどねー、言われてみればそうだ。そこらじゅうに落ちてるのに、価値がある物だったんだね。」
「僕は、この世に価値の無いものなんて無いと思うね。」
貝を一つ拾いながら、柔らかく、でも力強い声で返事が返ってくる。
久しぶりにこの海に来て、思い出した。
何気ない、夏の終わりの出来事。
あなたとのこの“何気ない”日常が、有限で、この上なく価値のあるものだったと気づく。
手に持った貝殻。
奥に見える夕陽。
ぬるい空気に包まれる。
二度と来ない、再会。
9/5/2023, 5:30:00 PM