Yuno*

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【終わりにしよう】

「本当に行くの……もう会えないの?」

歩き出した背後から届いた小さく震える涙声に、つい立ち止まってしまった。
俺は馬鹿だ。
どう考えても、このまま立ち止まらずに去るべきだった。
自分の手では幸せに出来ない女と判ってるから、いい加減身を引くと決めたのに。やっと『終わりにしよう』と告げたのに、結局絆されて。
惚れた弱みってやつはどうにも厄介だ。
態々戻って、頬に滑り落ちる雫を唇で吸い取る。

「一々泣くな」
「戻って来るよね?」
「さあな」
「いつでもいいから……」

アンタへの思いを切り捨てねばならないと思えば思う程、同じ分だけ何もかも捨てて拐ってしまいたいという本音が込み上げる。
その癖そんな柄にもない思いを悟られるのも嫌で、つい心とは裏腹な言葉が出てしまう。

「清々するぜ。その鬱陶しい泣き顔見なくて済む」
「……泣かせてきた張本人がそれ言う?」
「はは、違いねえ」

確かにアンタの言う通り、涙の原因は大概俺だったな。

身の程知らずの懸想だと判っていたから素直になれなかっただけで、これでもアンタの事愛していたんだ。今までセフレみたいな扱いしておいて、何言ってるんだって思うのかも知れないが。
まあ聡いアンタには何もかもバレてるんだろう。

「……じゃあな」

―――どうか、幸せに。


最後まで本心を告げないまま、今度こそ振り返らずに背を向け歩き出す。
明かりが要らない程光る青白い月を見上げると、月がみるみる滲んで崩れた。

7/15/2023, 12:16:14 PM