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「先輩、頑張ってください!」

喉が痛い、酸欠で頭がくらくらする。自分の大熱唱の声が頭に響いて輪をかけてくらくらする。マイクを握る手にも力が入らなくなってきた。
腹立たしい。非常に腹立たしい。なぜこの様な目に遭わねばならない。

「こんな馬鹿な除霊の仕方があるか!!」
「除霊じゃなくて結界です」

霊能者の弟子とかいう青二才がすかさず訂正を入れる。
「先生は大事な用を済ませてからこちらに向かいます。それまで霊を近づけない為に大熱唱してください。それが結界になります。具体的には90から100デシベルとかそのくらいのやかましさで」
等と言うものだから、言われるがままされるがまま歌い続けている。選曲や間奏や前奏の間にも、クソデカハミングや意味の無い大声を上げるなどしなければならず体力がもう限界に近かった。

「先輩!頑張ってください!あと5曲で交替です!」
「佐林!祠壊したのはお前なのになんで俺がこんな目にあってるんだ!」
「般若心経入れますね」

聞こえないふりをしやがる。つらい。つらい。つらい。早くこの時間が終わってほしい。
霊能者の弟子がおもむろにスマートフォンを手に持つ。

「先生、事務所の鍵閉めに戻るらしいのであと1時間延長お願いできますか」
「くたばれ!!!」

今日一番の腹からの声が出た。

12/20/2024, 2:35:59 PM