滝谷(shui)

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【私の名前】

「あんたも大変ねぇ、変わった名前だからさ」
「言うなよ、ばかぁ!」

 高校の進学先が決まった夜。
 お祝いに仕事帰りの姉がケーキを持ってきてくれた。実家で軽くパーティ気分でいた時のことだ。
 その解き放たれた一言が、俺の胸にグサッと刺さる。
 俺が即ツッコミを入れ家族からはどっと笑いがこぼれた。あまり嬉しくはないけど。
 
 キラキラネーム。
 背負わされた宿命と言わんばかりのバカな名前だ。
 小学校の時はいじめられた。中学の時も、ヒヤヒヤして過ごしたのを覚えてる。
 最初はやはりいじられた。友人があだ名を作ってくれたから、その後は難を逃れた感じだけどさ。
「亡くなったお婆ちゃんがつけた名前だからねぇ」
 食べ終わった皿を片付けながら母が言った。
 洋画ファンの祖母を恨んではいないが、『外人風の名前をつけちゃったから仕方ない』みたいな雰囲気は変えようがない。
「仕方ねぇよ……これが俺の名前だもん」
 何度も嫌いと思った名前だ。
 何度も恨んだ名前だ。
 はぁ、と深くため息をつくと、姉がわしゃわしゃと俺の頭を撫でた。
「喜べ弟よ。そんなアンタにお姉ちゃんが良いものをくれてやる」
 ドヤッと胸を張る姉を見上げて、はぁ? と首を傾げたが。

「アンタの名前、改名できるわよ」

 その一言に、ドクンと胸が高鳴った。

「え? え? 名前って変えられるの!?」
「当たり前でしょ。15歳以上、2000円でオッケーよ」
「やっす!」
 名前を法的に変えられる。
 そんな事ができるとは思わなかった。
 芸能界の一部……なんか特殊な人達だけのやつだと思っていたし。
「条件満たせば誰でもできるわよ。一回だけね」
「そうなんだ」
 現実感湧かなくて、フワフワしてる。
 横から両親が「でも」と何か言おうとしたが、姉は被せるようにドサリと資料をテーブルに置いた。
 ーー家庭裁判所。
 その文字から姉の本気が見て取れて。

「先に言っとくけど。自分を好きになれると、青春は楽しいわよ」
「ーー!」
「だから、自分の欲しい名前を、次は自分で考えなさいね」

 その言葉に、俺の胸が突き動かされる。
 変われるなら、変わりたい。
 今まで嫌いだったものが、違う何かに生まれ変わろうとする感覚。
 それは生まれて初めての感覚だったかもしれない。

7/21/2023, 3:45:22 AM