#💧 #🎴 #無気力系主人公
似た者同士。目の前でぎゃあぎゃあと言い合いをする男女を見て、俺はそんな言葉が頭に浮かんだ。もっともそれを言うと更に仲が拗れそうだから、敢えて言わないんだけど。
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今目の前にいるのは片や丙の俺の同期、片や甲の元水柱。二人は最近、師弟関係になりよく話すようになったが前まではそうじゃなかった。なぜなら元水柱──京 澄実(かなぐり すみ)さんが俺の同期──竈門 炭治郎(かまど たんじろう)を避けていたからだ。詳細は部外者なので知らないのだが、何でも価値観が違うため衝突を避けていたのだという。俺ならばそうだったんですねと流してしまうところにこの男は食いついた。だから避けられるんだごぞ、炭治郎。
澄実さんはあまり炭治郎と関わりたがらない。だから稽古をつけることも師弟関係になることも本当は前向きではなかったんだけど………まぁ、言わずもがなである。
澄実さんの音は聞き取りづらい。それは炭治郎も同じだという。音が小さい、というわけではなくて…霞んでいるという表現が一番正しいと思う。掴めない音は、誰とも違う音。聞きなれない音だから感情が読めない。表情にもそんなに出ない人だから余計に何を考えているのか分からない。そんな人。それでも、俺は澄実さんと炭治郎は似ていると思う。
鬼を目の前にすると澄実さんは、聞き馴染んだ鬼を憐れむような音を出す。誰かを助けることに躊躇いがない。助けに行く一歩が踏み出せる。強くて、優しくて。でもどこか泣きたくなるような音がした。鮮明な、深い悲しみの音。普段は聞こえないこれらの音は澄実さんと行った合同任務で聞こえたものだった。あれ以降、一度も聞こえたことはない。
容姿も、性格も、表情も、好きなものも、普段させてる音も、何もかもが違う。別の人間。正反対と言ってもいいかもしれないぐらいだ。だけど、その根っこの部分は何一つ変わらない優しさで溢れているんだって、俺は思ってる。
言い合いを止めようかなとも思ったけれど、この二人にとって言葉がないよりもある方がいいのだろうと思い直して上げた腰を元に戻した。落ち着くまで禰豆子(ねずこ)ちゃんとお話していようっと。
【ふたりを知るある男の独白。】
続く。
8/31/2025, 6:31:51 AM