狐コンコン(フィクション小説)

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「なぁに」

スマホに照らされて、夜景に君の顔だけがぼんやりと浮かぶ。

「別にぃ。せっかく月が綺麗に見える日だって言われてるのに、なんでベランダに出てるだけなのかなぁって。ここ都会だから見えにくいじゃん。」

私が唇を尖らせて文句を言えば、君はイタズラが成功したように笑った。

「月を見にいくためだけに田舎に行くなんて嫌だもん。それに今時どこも外灯があるから、月なんてなんも照らさないよ。今わたし達を照らしてくれるのはスマホ。」

真っ白な画面を揺らしながら、君の顔がゆっくりと私に近づいてくる。

「スマホも月も、光ってる時点で大して変わんないんだよ。」

月の光で作られた影が今の私達を作ってくれているくせに、口だけは達者な君がどうしようもなく愛おしくて、私は君の背中に手を回した。

11/16/2025, 5:40:52 PM