幼い頃、母は通り魔に殺された。
犯人はついぞ見つからず、今も母を殺した誰かはどこかでのうのうと生きている。
それが許せなくて、私は探偵を目指した。
どんな事件も解決し、この世の不条理を許さぬために。
幸運にも才能があったのか、若くして名探偵とまで言われるようになり、私の周りで解決されない事件はなくなった。
犯人のわからない事件のたびに、呼び出されてそれを解決する。鑑識の地道な捜査は、証拠を探すためではなく確認するためになった。
一つ一つ、正していく。
そのたびに世界から不条理が減っていると感じていた。
ある夜道、後ろから刺された。
痛みに倒れながら見上げると、見覚えのある顔だった。
よく事件の相談をしてくる警視の部下だ……。
なぜ、と……呻くように口にすると、彼は涙をこぼしながら語るのだ。
自分たちはなんのためにいるのだと。
お前は一足飛ばしに犯人を指し示す、そこに至る道筋もなく、いつしか自分たちは必要なくなった。お前の推理に従うままに確認するだけの手足だ、と。
そんなつもりはないのに、いつしか私は君たちを踏みにじっていたのか?
お前は何も悪いことをしていない、それでもこのままだと俺たちはいらなくなる。
そう嗚咽混じりに言われて、何だそれはと思った。
同じ答えを求めるのに、どうして……。
意識が途絶えるまで考えても、答えは出なかった。
手錠をつけられた部下が連れて行かれた。
何でこんなことをしてしまったのか、わからないでもないが世の中ままならない。
あいつが探偵にならなければ、俺があいつを重用しなければ、部下はこんな事をせずに済んだのだろうか。
警視、そろそろ撤収しますと声をかけられて、俺はもう少しここを見ていくから先に戻れと部下たちを帰らせた。
……あのときもこの道だったな。
俺がお前を殺さなかったら、あいつは探偵にならずに、部下もお前の子供を殺さずに済んだのかな?
3/19/2023, 7:33:23 AM