りありあリィ

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『友達』

 今日も今日とて街を行き交う人々を見ている。
 自宅警備員とかではない。違う、断じて違う。だからそんな目で見ないでおくれ!
 言うならば、そう。市街一帯警備員といった感じだろうか。
 そしてそれが、僕の仕事でもあり趣味でもある。

 そうして視線を動かした先には、可愛らしい男女が手を繋ぎ幸せそうに駆けている。
――あれは恋人、かな。
 にんまり笑顔で見送れば、二人に幸あれと小さく手を振った。

 次いで目に止まるのは、明るく輝く子供の顔。
 追い掛ける二人も、楽しそうに頬を綻ばせている。
――あれは家族、だね。
 人々の幸せそうな光景を見て、眩いような心地になる。
 そこに行ってみたくなるような、手を延ばすのは怖いような。そんな躊躇いを含んだ、眩しい感覚に。

 先程と同じように見送れば、最後に子供はこちらへと振り返った。
 気づいたのだろうか?
 僕はにんまりと笑って手を振り返す。幼い子どもは、こちらの気配に敏いのだ。

 活気ある人々は、それぞれの思いを胸に通りを駆け抜けていく。
 きっと皆、それぞれ予定があるのだろう。
 何より今日は、俗にいう祭日というものだ。

 さらに視線を落とす。
――彼らは、友人かな。
 目に止まったのは、楽しそうに談笑して歩く二人組。
 互いに気を許し合っているのか、その間には気安さが見受けられる。
 時にふざけ、軽口を言い合い。肩を組んで屈託無い笑顔を見せ合うさまは、心から信じあっている親友のようで。

……友、か。

 じぃと見つめていると、脳裏に同族とも呼べる男の顔が浮かぶ。
 スラリとした長身に、空色をなびかせる髪。意志の宿った銀色の瞳。
 彼のことを友と呼んでいいのかは分からない。同族の中でも色々と規格外で、恐れ多いという感覚もあるのだ。
 けれども、そう呼べたら良いなとも思う。

 ふざけた所なんて見たことの無かった彼が、最近は柔らかくなった。
 それが話し相手として気を許してくれたおかげなのか、はたまた彼の住む場所にあったという小さな変化のせいなのか。
 それは定かではないが、いつか彼とも、この往来を行く人々のように屈託無く笑いあえたら良いと。柄にもなく願ってしまうのだ。

 ふいに先程の二人組の声が聞こえた。
 何故か彼らは徒党を組み、口々に「モモンガ!」「目指せモモンガ!!」と盛り上がっている。
その摩訶不思議な光景に苦笑いを含ませたが、やがて走り出した二人は通りの先へ見えなくなってしまった。

 そうして道行く往来の人々を見ていて思う。
 次に彼が来たときには、手始めに『友達』として名を呼んでみようかな、と。

10/25/2023, 4:49:55 PM