《仲間》
背中を預ける、というのは本当に信頼している人に対してしか行うべきではないと俺は思っている。
自分でも仕事上厄介な性格をしているとは思っているものの、これには理由がある。
過去に幾度も裏切られたのだ。
言ってしまえばそれだけのことだが、本日三回目の裏切りを耳にして、なお、落胆するら気持ちは堪え切れなかった。
通算五十回目。拍手でもしてやろうかな、ホント。しとこう。
「——ひいぃっ……!! ぼ、僕はこんなの知らないッ!」
「はぁ……もういいってそういうの。まーた逃げんだろ、俺一人ここに残して——ってもういねぇ! 逃げ足だけは早いな……」
ぺちぺちと手を叩き、緊迫した状況にそぐわない声で文句を言っても非難の声はない。
振り返った先にいたのは、どこにでも現れる下級魔物でお馴染みのゴブリンさんだ。しかもご丁寧に、血の一滴も流さずに六体とも武器をお持ちだ。俺が退路を任せていた少年は雑魚と判断したのか、皆俺の方を警戒している。
え? なに、ゴブリンの方がよっぽど優秀だって? 俺もそう思う。
「退路を人に任せるの、止めようかな……」
正面に顔を戻して数歩。後ろから、背中からなら簡単に討てると思ったのか魔物の迫る音がする。結構うるさい。
「でもやっぱり誰かを誘う必要があるんだよな……この制度クソだな、マジで。一人でも潜らせろよ、ダンジョンくらい!」
左手で抜刀。背後を一閃して、俺は歩を早めた。この調子じゃあ、日が暮れる。
地を塗らす魔物の血は黒く、人間のそれよりも粘着質だ。それが付着しては堪らない。
「冒険者って楽に見えて楽じゃないし……結局金と権力がものを言うんだから、自由に見えて全然そんなことないんだよなぁ」
冒険者、という職が多くの人に歓迎されている理由は、経済的な理由も多分ある。
様々な人から依頼を受けて、それをこなすにあたって金が動く。王家や大貴族からの依頼であれば豪邸を買えるほどの大金が動くこともあるし、物資が過程で必要となった場合はその依頼の場所ごとに金が落ちる。
そして、冒険者は誰にでもなることができる職業である、というのも非常に魅力的に映るのだろう。
その所為で、俺はこんなにも裏切られているわけだが。
「あーあ、貴族の坊ちゃんとか組むもんじゃないな……どいつもこいつも度胸もなければ技量もねぇし。心が弱すぎる」
さっき逃げた少年も子爵家のナントカ様だ。やたらと長い家名を意気揚々と名乗るより、実力で魅せてほしい。
ならなんで俺が組むのか? それには深いわけがある。
そう、俺が万年金欠という事実があるのだ。
だから、毎日ダンジョンに籠る必要性がある俺は、誰でもいいから今すぐ行ける人を連れてダンジョンに行くしかない。実力不足の権力だけはある冒険者、というのが割とそれに該当するのだ。
やむなく得た、仲間もどき。
「……いつか本気で背中を預けられるような奴が」
仲間ができたらいいのに。
そう思い始めて、ちょうど百日目の夜も更けて行く。
12/11/2024, 3:16:51 PM