イオリ

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海の底

 朝四時。この時間でもそれなりに車が走っている。

 ヘルメットを被り、バイクに跨った。荷物を確認してから、ゆっくりと出発する。

 緩やかな下り坂。寄り道せずに三時間。ただひたすら一本道。

 地面はコンクリートだが、両側と上部は海が見える。さながら、水族館のトンネル水槽そのものだ。等間隔で照らす照明が、神秘的な海の世界を見せてくれる。いやはや、日本の科学技術の進歩は、実に素晴らしい。

 とは言うものの、感動は、新聞配達を始めた数週間だけだった。慣れてしまえば、地上の日常の様に順応した。人間の感覚とは恐ろしいな。

 恐ろしいと言えば……。
 
 このトンネルと海底の街は、国の威信を掛けた、大規模公共事業だ。当然ながら、政治家が主導的に関わっている。

 今日の朝刊の一面は、『裏金事件で国会議員三名逮捕』だ。

 今更だけど、このトンネル……。本当に大丈夫かな。

 
 

1/20/2024, 11:44:13 PM