「もしもし、もしもーし」
孤独な穴の中で、誰かいないかと“それ”は彼方に声をかけた。
だが、闇から答えるものは何もない。
「もしもーし……。だれもいないの……?」
何もない闇の中、ひとりぼっち。
寂しくて寂しくて、手で口を囲うように筒にして声をかける。
「おーい、おーい」
やはり答えるものは何もなく、“それ”はとうとう寂しくて泣き出してしまった。
「くすん、くすん」
静かに、静かに涙がこぼれる。
「くすん、くすん」
どこから来たのか、どうしてここに来たのか、”それ”はわからない。
わからないのに、ひとりぼっち。何をしたらいいのかも、わからない。
「くすん、くすん……――あれ?」
”それ”がしばらく泣いていると、するすると白く光る線が降りてきた。
線は”それ”の足元にとぐろを巻き、しゅるしゅるとかさなっていく。
じっと線が重なるのを見ていた”それ”は、ふと思いついた。
(なんだか、これ、『いと』みたいだな)
光る線の端を持ち、苦労しながらなんとかそれを小指にくくりつけた。
(もしかしたら、いつかなにかでみた『いとでんわ』ができるかもしれない)
糸の光に勇気をもらったのか、少し元気が出た”それ”は、もう一度手で口を筒のように覆って、闇の中に声をかけた。『糸』をくくりつけた小指を少し立てて。
「おーい、おーい」
声をかけてしばらく待ってみる。
しかし、何も返ってくることはなかった。
「やっぱり、ボクはひとりなのかな……?」
新たにやってきた寂しさに、再び涙がこぼれそうになっていると、
「……ーい」
何かが闇の彼方から聞こえた。
”それ”は三度手を筒にして叫んだ。
「おーい!」
「……おーい」
声が返ってきた。”それ”は嬉しくなって更に叫んだ。
「おーい!いるよ!ボクはここにいるよ!」
「誰だー?そこに誰かいるのかー?」
今度は明確に返事が返ってきた。”それ”は喜び、その場で飛び跳ねた。
また手を筒にして、声に返した。
「ボクはここにいるよー!」
/6/19『糸』
6/19/2025, 8:46:48 AM