《1年後》
大好きなあなたに闇に魅入られた者だと疑われたあの時、私は自分が死ぬ可能性もあると覚悟した。
私自身、自分が何者であるか断定出来ない。
その上、この身体の特徴。以前、闇の力に魅せられた人物にあまりにも似た髪と瞳の色。
かの人物が起こした騒動の為に、この世界は一度滅びかけている。
せっかく救ったこの世界を、あなたが見捨てるはずがない。
いえ、見捨ててほしくない。
懐に入れた人には甘くなるけれど、あなたには曲がらぬ正義への信念がある。
それを決して曲げてほしくない。
愛しい大事なあなたの一番大切な部分を守りたいから。
だから、私は満月に誓った。
私が闇の者ならば、あなたに裁かれたい。
その時は、迷う事なくその引き金を引いてほしい。
私の全ては、あなたの物。全てをあなたに委ねます。
そんな誓いを立てた、その1年後。
私は、またあの時と同じように頂へと向かう満月を見ている。
全ては、あの月のように綺麗に丸く収まった。
私の存在は、疑念を受けたものではなかった。
祝福。遥か古の昔よりの想いを紡ぎ、私は今ここに立っている。
ここへ辿り着き、あなたと出会い、あなたを救い、古の想いを受け取った。
そんな気の遠くなるような出来事が凝縮された、それでも尊いこの1年。
あなたはずっと、私を一人の人として扱ってくれた。
私の立場を考えればぞんざいに扱われてもおかしくないのに、ひたすらあなたは優しかった。
やっぱり、あなたは私の知っていたとおりの人だった。
義理堅く、正義に対する折れない信念を持ち、誰よりも優しく暖かい。
あの時、相棒の中から見ていた印象そのままの人だった。
ありがとう。本当の彼に会わせてくれて。
見上げた月に感謝を送れば、背後からかさりと足音が。
振り向けば、そこにはこちらを見ているあなたがいた。
月の光に照らされて、そこだけきらきら眩しく見える。
思わず笑顔で駆け寄れば、あなたは満面の笑みで優しく私の手を取ってくれた。
6/24/2024, 2:03:04 PM