古菱

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お題:ブランコ

 大きくなればできることが増えると思っていた。たしかに昔よりできることは増えたけど、できなくなってしまったこともある。今乗ってるブランコもその一つだ。
 夜の公園で私はブランコに身を委ねている。足を伸ばしてても曲げても地面に着いてしまいそうだった。きっと大丈夫だろうけど、今の私の体重で鎖が取れてしまわないか心配になる。高校生の私は、昔みたいに無我夢中でブランコを楽しむことはできない。
「靴の先削れそう……ブランコってこんなにちっちゃかったんだ」
 隣にいるアキラはブランコを揺らさず座っている。すっかり背の大きくなったアキラがブランコに座ってるのは、正直いうと似合わなかった。
「昔よく遊んだよな。学校でも昼休みになったらすぐブランコまで走ってさ」
「懐かしい! そんでブランコ思いっきり漕いで前に飛ぶのやったよね」
「あー、どっちが遠くまで飛べるかってやつな」
「今は怖くてあんなの無理」
 ブランコの揺れに合わせて私の気持ちも揺らぐ。数年振りに会ったアキラは昔と変わらず恰好いいままで、好きだなという想いが色を取り戻してしまった。
 偶然だった。バイト先から家に帰ろうとしたら、アキラに声をかけられた。小学生のときはアキラとよく一緒に過ごしてたけど中学では別れてしまったから、会うのは四年ぶりだ。懐かしい気持ちが抑えきれずに会話が弾んで、帰るのが惜しくなって今に至る。
 昔は隠すことなくアキラに「好き」と言っていた。今そんな勇気はない。ブランコだけでなく、告白も今のわたしにとっては怖くて無理なものとなっていた。
 きっとアキラとはこれっきりなんだろうな。思ったと同時に指に軽く痛みが走る。鎖に皮膚を挟んだようだ。
 地面に足を着けてブランコを止める。そろそろ帰ろうか、と私が声をかける前に「なあ」とアキラが言った。
「遊園地にでっかいブランコみたいな乗り物あんだろ」
「ぐるぐる回るやつ?」
「そう。なんか無性にあれ乗りたくなった。今度の休み一緒に行かね?」
 体の中から一瞬重力が消えたような感覚になる。「いいね。行こ」何気なく返したはずの声が少し高くなる。
 空まで飛んで行けそうなほど、私の気分は高揚していた。

2/1/2026, 2:06:32 PM