とりとめもない話
「なに話してたの」
「え?」
「さっき。小田と2人で話してたでしょ、何の話?」
問いつめると、彼女はやだなあと首を振った。長いポニ ーテールがさらさら揺れる。
「別に何でもないよ。他愛もないこと」
「どんなこと?言えないの?僕に知られたくないこと?」
「友くん」
「だって僕に話さないって、そういうことだろ。都合が 悪いんだ」
「友くん、あのね」
彼女は腕を伸ばして、僕の頬を両手で包んだ。先週、一緒に買 いに行った手袋はふわふわして暖かかった。
「あのね、そりゃあわたし、付き合うとき『ちょっとは 束縛してね』って言ったけど。これじゃ尋問だよ」
困ったように眉をひそめる彼女の口元は、やっぱり微笑 みが絶えなかった。
「いーい? 小田くんとはゼミのことで話してたの。は い、疑い晴れた!」
「ちょっと美咲……」
「じゃあ、もう電車来るから。また明日ね!」
点滅する踏み切りの向こうへ、美咲は手を振って駆けて行った。彼女のぱっと明るい笑顔が僕は好きだった。
電車が僕らを引き裂くように通り抜けていく。僕は大好きな彼女に大きく手を振った。
「また明日、じゃあ」
じゃあなんで、小田の家に行ったの。
じゃあなんで、小田と手を繋いでいたの。
じゃあなんで、キスしていたの。
いつからだろう、あんなにきれいに笑う美咲の「他愛もない話」を信じられなくなったのは。
途中で壊れたんじゃない。きっと、最初から何も築けていなかっただけだ。
最近、友くんの様子がおかしい。
今まで絶対にしなかったのに、よく女の子と2人で喋っている。
「友くん、さっき、岡田さんとなに話してたの?」
「何でもないよ。とりとめもないこと」
「ほんとに?わたしに隠し事してない?」
友くんはスマホから顔を上げて、優しく目を細めた。
「うん、なんにも」
12/17/2024, 1:54:16 PM