aoi shippo

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 湿っぽい洞窟から、鉄格子越しに見える、綺麗なもの。
 ーーあそこに見えるのは、なあに?
 そう聞いた私を哀れに思ったのか、「あの青い色は、空だ」と教えてくれたのは、年老いた牢番だった。

 山の中ほどにある、この洞窟は、入り口に鉄格子がはめられ、牢屋として使われていた。
 ーー村を大きな嵐が襲った夜に、生まれた忌み子は、怪異となりて災いをもたらす。しかし手を下せば呪いが返るため、生かして封じるべしーーそんな言い伝えのもとに、私は物心がついた頃から、この牢屋に閉じ込められていた。

 一日一回、差し入れられる食事。洞窟の奥の囲いの中で、用を足す。それ以外に、私ができることといったら、外を眺め、牢番に話しかけてみることだけだった。
 そんな、変わり映えのない毎日が続いていく。

 牢番は、数人の村人が交代でついているようだった。ほとんどの牢番は、私と言葉を交わすと呪われると思っているのか、返事があることはまれだった。

 だが、その中で一人、その年老いた番人だけは、私に色んなことを教えてくれた。物の名前も、天候の見方も、村の言い伝えも。
 ぼそぼそと、白いひげの下から出てくる言葉は、水のように、渇いた私に染み込んだ。亡くなった孫娘と私の背格好が似ているから、と彼は言った。
 私にとって、単なる“外”でしかなかった場所は、空であり、大地であり、鮮やかな色がついている世界なのだと、知った。

 そうして、知ってしまったがゆえに。
 自分が当たり前だと思っていたものはーーごく一部の切り取られた景色で、私はここから出ることを許されないことが、ひどく苦しくなったのだ。
 もっと、たくさんのものを。広い空を見てみたい。
 握りしめた鉄格子から、きしむ音がした。

 もし、私が、本当に災いであるなら。この牢を砕いて、外に出ることも叶うだろうか。



『その空の先を望んで』
(私の当たり前)

7/10/2023, 10:05:40 AM