安達 リョウ

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君の奏でる音楽(祈りの歌)


彼女の歌声は百年に一人の逸材だと世間で持て囃された。
透き通るように繊細だが芯があり力強く、聴く者を一瞬で黙らせる能力は天下一品。
皆、聞き入らずにはいられない。
オペラのように滑らかに、高音と低音を使い分ける彼女の歌に世間は夢中になり虜になった。

「素晴らしいわ、今日も拍手が鳴り止まない。あなたの歌声に皆釘付けよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
「日に日に人気も高まって、メディアの対応がいっぱいいっぱい。嬉しい悲鳴ね」
―――外へ出れば取材陣と出待ちのファンで溢れ返る。それらに丁寧に対応しながらスルーしてその場を離れる彼女は、完全にスターとして確立されていた。

一日を多忙に過ごし、家に帰ると一目散にベッドに突っ伏す。
………疲れた。
声を整える、特別に配合してもらった飴で喉を労りながら、彼女は気怠げに寝返りを打った。

小さい頃から歌うのは好きと言うより、使命だと思っていた。
歌わなければならない。
何かのために。誰かのために。
この歌声を何処かに、届けなければ―――と。

『歌ってよ』

『歌ってくれたら、すぐに君を見つけて会いに行く』

微睡む夢の中で、その人は静かに微笑んでいた。
懐かしい、遥か昔のいつかの記憶―――。

わたしの歌は、貴方に届いているだろうか。

―――僅かに残る理性で大好きなメロディを夢現口ずさむ。
遠くに置いてきた思い出に瞼を閉じたまま、彼女は切なく微笑むのだった。


END.

8/13/2024, 6:39:01 AM