『失われた時間』
コツコツと登る石段。足元を照らすランプの光を頼りに暗い道をまっすぐと進む。
辿り着いた場所に聳え立つ重厚な扉に触れるか触れないかの所で手を止めると、淡く輝いた青い文様が中心から広がり、やがて音を立てて扉が開かれた。
完全に開けられた扉の先、真っ白い花畑の真ん中にポツンと建つ1軒の洋館を確認し足を進める。
強すぎる花の香りさえ気にすること無くまっすぐと進むと、オレンジ色だったランプの光が青白さへ色を変え、空には数多の星が流れた。
ふわりと巻き上がる風に散る花弁が全身を包みボロボロだったローブを純白のドレスへと変えていく。
腰よりも長く伸びた白銀の髪、雪のように白い肌とまぶたに隠された濃い青の瞳が洋館の前に居た者を捉える。
「ようこそ新しい主様。ここは忘れられた楽園。私は貴方を歓迎致します。」
ドレスの裾を少し持ちながら仰々しく頭を下げる。
今日もまた、世界に捨てられた哀れな者がやって来た。
これから始まる戦いは果たして終わりが来るのだろうか。
楽園に時間等関係無い。
あるのは絶望と言う希望だけ。
さあ、主様。貴方の物語を私に見せて。
貴方の時間が終わるその時まで私が貴方と言う物語を綴ります。
それが、失われた時間の中で生きる私の役目なのだから。
始祖は失ってしまった家族を甦らす為に禁忌を犯した。
復活させた家族は全くの別物として甦るも、始祖はそれを否定した。
ー私の家族はこんなに醜くない
そう、家族を否定した。
だって、屍人を生き返らせたとしてもソレは最早別のナニかなのだから。
狂ったように禁術を犯し続ける始祖はある時見つけてしまった。本物を蘇らす方法を。
それこそこの世界が崩壊してしまった原因であり、絶望の始まり。
私は、この場所で待ち続ける。
私を終わらせてくれる主様がやって来るのを。
真実を見つけてくれる主様を。
あぁ、今日も……ダメだった。
次の物語はどんな内容なのだろう。
「ようこそ新しい主様。ここは忘れられた楽園。私は貴方を歓迎致します。」
5/13/2024, 2:20:27 PM