かおる

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 金曜日が満月だったら月を見よう。
 月を見ることを言い訳にして、ただ二人でだらだらと夜を過ごす日。
 学生時代は毎月の恒例行事だったが、お互い社会に出てしまい平日の夜更かしができなくなったことで、半年に一度開催できるかどうかの頻度になってしまったそれが今日である。
 会社からの帰り道、少し良いお酒とおつまみを買って帰宅ラッシュの電車に乗り込む。
 人混みでうんざりする心も今日ばかりは手にぶら下がる重みによって少しだけ浮き足立つ。

 いつも何をするかは決めていない。本当に月を見る日もあれば適当に映画を見る日、ゲームをする日、お互いが別々に好きなことをする日もある。
 ただ決まっているのは空が明るくなって、月が完全に見えなくなるまで起きること、もし相手が寝てしまったら叩き起こすこと、それだけ。
 防音性がそこまで優れていない部屋で、月明かりだけを頼りに夜を越す。まるで一日だけの秘密基地だ。

 ポケットに入れていたスマホが震える。
 メッセージアプリを開いてみれば、どうやら相手も仕事が終わったようだ。
 続いていくつかの写真が送られてくる。
 お酒とお菓子と何かのアナログゲーム。そういえば最近気になっていると言っていた気がする。

 今夜のお供が決まったところで、電車のドアガラスの向こうを見れば東の空に月が掛かっているのが見えた。
 まだ低い所にある丸い大きな月に、少しでも長くこの夜が続いてほしいと願わずにはいられなかった。

5/27/2024, 9:33:01 AM