ミミッキュ

Open App

"本気の恋"

 ずっと《恋》なんて知らなかった。
 言葉だけは知っていた。だけど、学生の頃は医者になる為に勉強ばかりしていたし、医者になってからも1人でも多くの患者を救う為に日々奔走していたり、最新の医学を調べて学んだりしていたから、恋愛なんて自分には縁遠いもの。
 それなのに、そう思っていたのに。29になって、しかも同性の、年下のやつに《恋心》を抱くようになるなんて誰が想像できる?最初は『なんかあいつ、よく俺の視界に入ってくるなぁ』と思う程度で。あいつが来た時、心のどこかで喜んでいる自分がいることに気付いて。以前から料理の腕は立つ方だったが、ある時期を境に料理のレパートリーが増えていた事にも気付いて。あいつと離れている時、何だか胸が苦しくて辛くて。それらに気付いた時、俺は一体どうしてしまったのか、と不思議で仕方なかった。
 それは《恋》だ、と言われた時勿論混乱した。初めての感情の名前が《恋》だし、その相手が同性だし。けど、それを否定する事なんて出来ないし、したくない。そんな事したら、自分の心に嘘をついて、自分を否定する事になりそうで怖かった。だから、こんな自分を受け入れて、何もしないで過ごす事を選んだ。この気持ちを伝える事なく、ずっと片想いでいる事を選んだ。だけど、苦しくて苦しくて、片想いでいる事に耐えられなくて、どうしようもなくて。いつか伝えなくちゃいけない。心臓が、ドクンドクン、と打ち付けてきて痛いけど、伝えなくちゃ。伝えなくちゃいけない。この想いを、胸にわだかまっている言葉を伝える勇気を、どうか、俺にください。

9/12/2023, 11:41:20 AM