神木 優

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 三十路目前にして同窓会があった。
 一次会に興味はない。仲の良かった三、四人で居酒屋の個室を借りてやる二次会。こっちがメインだった。メインのはずだった。
 学生の頃、彼女なんていらねー、とほざいていた友達Aは結婚し、働いたら負けだろ、と言っていた友達Bは有名企業でいい役職にいるらしい。他の輩も学生時代から結構変化があった。
 ただ、僕だけ。僕だけが学生の頃から変わっていない。
 未だに吹聴していた『作家になる』という夢を追いかけ、彼女も作らず、定職にも付かず、なんの資格も取り柄もなく、小説もどきを書き続けている。
 気分は最悪だった。

「おい神木。まだ小説は書いているのか?」
 不意にそんなことを聞かれた。僕は嘘がつけず、書いてる、とだけ答えた。それを聞いた他の輩は羨ましそうな顔を僕に向けた。
「お前に変化がなくてよかったよ」
 誰かがそう言った。他の輩も、うんうんと同じように頷いている。
「俺達はさ、結婚とか就職とか筋トレとか、やらざるを得なかった。周囲から変化しろ、と圧力をかけられて変わっちまった。俺たちだって本当は昔みたいに馬鹿やって、その日暮らしができりゃーそれでよかったのに、どうしょうもなくなって、やりたくないこともやらなきゃいけなくなって、気がついたらこうなってた。
 だからさ、変わってしまった俺達にとって、お前は俺達を過去に戻してくれる大切な友人なのよ。お前まで変わってたら、人間は誰一人として時代の波に逆らえないことになっちまう。だからさ、お前はできるだけそのままでいてほしいのよ」
 酒の席。作家を目指してるお前が丁度いい、と言われてるような気がして素直には喜べなかった。が、嬉しかった。

 ないものねだり。

 僕は心の中で呟き、学生時代のニヒルを演じた笑い方で笑い、でグラスに注がれていたビールを飲んだ。

7/18/2024, 11:58:20 AM