今日も、世界は美しい。
朝日が窓から差し込んでいた。
薄緑に朝日に透けた葉の向こうには、朝露が煌めいている。
爽やかな風に乗って、優しい小鳥の囀りが届く。
その柔らかな平和に混じって、登校前の子どもたちの、少し眠たそうな「いってきます」や「おはようございます!」が聞こえてくる。
あちらでもこちらでも、誰か大切な人に対しての、「おはよう」が飛び交っているに違いない。
ぐぅん、と伸びをして、外を眺める。
朝の日課には良い朝だ。
伸びをして、今まさに朝の世界に出て行こうとする彼女は、この世界が好きだった。
どうしようもなく厳しくて、辛いこともよくあるけれど、世界を憎んだこともあったけれど、それでも彼女は世界が好きだった。
相変わらず朝は穏やかに美しいし、昼は燦々と賑やかで、夜は静けさと冷たい闇が美しかったからだ。
人は悪いことをするかもしれないけど、悪人にも愛を注いでいる人がいて…だから彼女は、知らない誰かも誰かの大切な人で主人公である、この世界を愛していた。
彼女は、この世界がどうしようもなく好きだったのだ。
世界を愛しているものは、愛に敏感になる。
知らない親が、我が子にかける声も。
太陽が地球に注いでいる光も。
月が夜を静かに照らしていることも。
それが各存在が、この世界に愛を注いでいるのだ、と思えるほど。
彼女はそして、そんな大好きな世界のために、自分も愛を注ぎたいと思っていた。
常に世界を大切に思い、誰かを助け、もっともっと愛が溢れる世界にいたかった。
つまり彼女は、世界に期待していた。
この愛すべき世界を、愛に溢れる平和な世界にしていきたいと思っていた。
それを妨げるのは、大抵人間の存在だった。
有史以来、多数の動物と人類と植物を、幾度となく滅ぼしてきた人間。
同族同士でさえ、争いごとに飽くことのない人間。
歴史上は比較的平和なこの現代でさえ、殺害と事件の絶えない人間。
彼女は、人間は滅ぶべきだと考えていた。
そして、そのための計画を、人生を賭して練り続けていた。
同族を殺すことで、世界に愛を注いで、世界をより良いものにする。
それが彼女の夢だった。
彼女の注ぐ、愛だった。
人間にヒーローと呼ばれる敵の、目の前で、膝を折りながら、彼女はそんなことを思い出した。
自分の注いだ愛を。
自分が愛した世界の朝を。
愛を注いで、道半ばで敵に頽れる。
愛を仇で返されたようなそんな日でも、世界から裏切られたように感じるそんな朝でも。
相変わらず、今日も世界は美しい。
美しかった。
地面に頽れながら、彼女は相変わらず、世界に愛を感じて、注いで、注いでいた。
愛してやまなかった晴れた朝日に愛を注がれながら、この日、一人の犯罪者が死んだ。
12/13/2024, 11:45:56 PM