Mey

Open App

光と靄の狭間で


彼女の23歳の誕生日。
僕は彼女の好きなフルーツタルトのホールケーキを持って彼女の部屋を訪れた。
小さなホールケーキのキャンドルの炎を彼女が吹き消すと柔らかな淡い光が余韻を残す。僕は照明のリモコンを手に取り、部屋を明るくしてケーキを切り分けた。

交際を始めた大学生の頃から、僕は彼女と2〜3人用の小さなホールケーキを食べ切ってきた。
「二人とも甘いものが好きで良かったよね」と笑い合って、半分こづつ。彼女はフォークで小さく切り取って小さな口に少しづつ運ぶ。
彼女はずっと昔から可愛い。小動物のようなその食べ方だけでなく。


彼女は光のような人だ。
僕は彼女と想い出を共有してきた。アーティストのライブやサーキット場の迫力を、黒目がちの瞳をキラキラさせて彼女は喜んでくれた。
夜の帷が降りた暗い部屋で二人きりで過ごす時間は、二人の愛が強くなることを教えてくれた。


僕たちは一度も喧嘩をしたことがない、穏やかな関係だ。
互いに意見を言い合わなくてもなんとなく思いを察することができている。それって、素晴らしい関係だと思う。

だから僕は大学生の頃、彼女に「結婚するなら君みたいな子が良いなあ」と何回か言ったし、それに対して「うん、私も」と小さな声で返事をしてくれたとき、嬉しかったけれど当然のこととも思った。


彼女に光だけが差しているわけじゃないとわかったのは、大学生卒業後だ。
看護師として就職したとき、側から見ている僕でも看護師という仕事は精神を削られていくんだとわかった。
やつれていく彼女が心配で、僕は彼女と休みが会うたびに彼女を外へ連れ出した。気分転換が彼女には必要だった。

彼女が働き始めて1年を過ぎた頃、彼女の顔にはようやく明るさが戻った。

その頃だっただろうか。
彼女が休みの日に僕が部屋を訪れたときに笑顔で迎え入れてくれていない気がしたのは。







10/19/2025, 10:37:10 AM