22時17分

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きらめきを口にして、苦労を吐き出すニンゲンの横を過ぎ、彼は歩く。
こんなニンゲンにはなりたくないものだ。メデューサにより身体を石にされてもなお、口元には銀色の粉が付着している。
唾液が干からびて、何かしらの物質が析出したのか。あるいは、彼のように自由の妖精にイタズラされたか。

彼のように、自由に歩ける人間は限りがある。この世界の大半のニンゲンは、動けない石像になった。
石像でその場に固まった者たちは、みな思い思いの表情を張り付け、嘆き・苦しみの表現をしている。
メデューサのせいだ。
彼は、苦々しい味を我慢した。

メデューサのせいだ。
徘徊するメデューサ。
どこにいるのかわからないメデューサ。
怪物。不死なる存在。
故に、生を知らず時間を知らず常識もニンゲンも知らず。
「死にたくない」と口にした者たちの前に現れては、そのきらめきを叶えるゾンビと化した。

メデューサになりたいと願う者もいるのだろう。
メデューサは一人ではない。

「そう、ひとりじゃない」

彼は独り言を言い、また石像の隣をすり抜けた。
へその緒が繋がれた赤ん坊を抱いた、娼婦の寝姿だった。

9/5/2024, 7:21:29 AM