虹果(カクヨム垢有)

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洗面台の鏡に映る自分が笑っている。
私はこんなに悲しいのに、なぜあなたは笑っているの?
その釣り上がった口角が、細長く伸びた目尻が憎くて。私は近くにあった焼き物のコップを全力で、鏡の中の私に投げつけた。
うるさい音がして、コップと鏡の破片が飛び散る。洗面台の上に散らばる。
複数枚の鏡のカケラのそれぞれに私がいる。頬に赤い線が入った顔でこっちを見下して、やっぱり嫌な笑顔を浮かべて。
「何がしたいの…!!!」
私がそう叫ぶと同時に、鏡の中の無数の私は口を動かす。
(((なにかしたいの)))
もう耐えられなくて、私は私たちに背を向け、洗面台の前から逃げた。
ベッドに潜り込んで、息を整える。
それから私は、自分の頬に触れてみた。
……ニュッと持ち上がっている。あの鏡の中にいた、たくさんの私のように。ああ、悲しむべき時なのに、私は笑っているのだ。これは、私の意思なのだ。
自分の立てる笑い声を聞いた。
それは、今までの私が崩れ落ちていく音だった。


(お題 : あなたは誰)

2/19/2025, 11:13:11 AM