海月は泣いた。

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イルミネーション


イルミネーションを見てはしゃぐ若者たちを見て、馬鹿らしいと思っていたけど、今はその気持ちがわかってしまう。確かに、恋人と見るイルミネーションは綺麗だ。柄にもなく心が浮ついてしまう。青、白、黄色、赤、色とりどりのちいさな光を如法暗夜の瞳に宿している横顔が、あんまりに美しくて思わず見蕩れた。光と藍が混じりあってゆらりと揺れる瞳に溶かされてしまいそうだ。こちらの視線に気づいて、目が合う。途端に凛とした表情をくしゃっと崩して、甘ったるい表情をさせるから恥ずかしくって頬が染っていくのが分かる。薄い唇がゆるく弧を描いて俺にだけの笑顔がむけられるのがもう堪らなかった。
「どんな光より綺麗だよ」
そう笑うから、俺はなんて返したらいいか分からなくなって目を逸らした。その様子にまた愛おしいみたいに笑っていた。
「…俺も、そう思う」
俯きながらちいさな声で言うと、やっぱりそう思うよね!自他ともに認める美しさで……!とか呑気な答えが返ってきて呆れた。ほんとうにこいつのことは未だによく分からない。お前のことを言っているんだと返してもきっとそんなそんな…って、両手を振って否定するだろうし。でも、昔みたいにムキになるのはもうやめた。絶対に分かり合えないと分かったからだ。それでも、どんなにムカついたって分かり合えなくたってこいつの隣を譲るつもりはない。そのくらい俺はもう毒されてしまってる。そうやって自分が自分で無くなっていく感覚が酷く怖いのに、恐ろしいほど心地好い。
「もういいよ、それで」
思ったより優しい声が出てしまって焦ったけどこいつはそんなこと気にしてないみたいだった。ゆるゆると顔を綻ばせて、だらしない表情をさせてる。俺以外にそんな顔するなよ、なんて独占欲がでてしまうのは、きっと言わなくてもしないだろうけど。言葉にする代わりに、身を寄せて手を繋いだ。今にも沸騰しそうなほど真っ赤になった顔に笑った。強く握り返された時のちょっとの痛みが嬉しくって心臓が痺れるみたいだ。つま先から頭のてっぺんまで満たされて溢れてしまいそうになる。頭を寄せて押し付ければまた顔を赤らめるのが可笑しくて、それを繰り返した。小さな光たちがキラキラと輝くけど、その何よりも、照れた笑顔が眩しくて仕方なかった。

12/15/2023, 3:42:43 AM