遠野 水

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【冒険】防空ごう編
小学校の裏の神社は古く、行く道の木の階段は朽ち果てていて、階段が埋め込まれた土を踏みしめて登って神社まで上がる
神社の裏は暗く小学生の自分たちは神社の前で遊んでいた
その日は秋も深まり枯れ葉をカサコソガサゴソと靴で鳴らしながら高鬼をしていた
日が暮れかけて来て気味が悪くなって来たので
帰ろうと声を掛け合っていた時に
かんちゃんが神社の裏から
穴に入って大人の男性と話してきたと言う
「どんな人?」「帽子被った兵隊さん」
「エッ?!それって幽霊?」「違うよ!
足もあった」「なんて話してたの?」
「木村カヨさんを知っていますか?会いたいんです」って言ってた
カヨばぁは今年92歳、こんな神社まで来られない「穴から出て来て貰って、神社の下まで来て貰ったら?」
「自分は出られないからカヨばぁを連れてきてほしいって」
そんなの無理だよね、と私たちは顔を見合わせて言った……「ねぇ、家の人に話してみようか?」小学生の私たちにはどうも出来ない
みんなで穴へ行ってすぐには無理だけど
会えるようにしますって言って来ようと言う話になった
恐る恐る初めて神社の裏へ行った 
神社の裏はあっけないほどに綺麗に草も刈られ
整えられていた
かんちゃんが「ここは凄い草で少し下った所に穴があった」と説明した
探しても探しても見つからない 
これ以上、探すと真っ暗になってしまう
帰ろうとしていたその時に、かんちゃんは
さっき会った兵隊さんの帽子らしい物を見つけた、会った時よりもボロボロで最初は何か分からなかった
「きっとカヨばぁに会いたいんだよ」と
それを持って木村カヨばぁに会いに行った
カヨばぁに事のいきさつを話すと
帽子を抱いてポロポロと泣いた
そして私たちに何度も何度もお礼を言った
「子供たちに連れてきてもらったのね」と嬉しそうに空をみつめていた
私たちはカヨばぁが喜んでくれたから
これで良かったと微笑みあった
翌日からカヨばぁは玄関を掃き
軒先の花に水をあげられるまで顔もにこやかに
元気になった
「一人じゃないからもう寂しくないのよ」と笑っていた
カヨばぁが元気になったならそれで良かったと
この話はその時いたメンバーの秘密にした
何となく話さない方が良いような気がした
秋の深まった青空がそれで良いと言っていた




【冒険】
大なり小なり冒険をする時は
気乗りしないなら、しない事だ
自分から提案した事ではない
その日は疲れているから、一度は「行くつもりは無い」と伝えた
誘った相手は心外だと言い私が行くのが当たり前だと思っていた
私だって体力の自信の無い、気乗りしない日はある、テンションはだだ下がりでいる

深水後、腹痛にあえいだ私は海へ沈んで行った
自宅以外で胃腸炎になる事は初めてだった
『やっぱり来なければ良かった』と心の中で呟いていた……自力で浮上する体力などある訳もない……ただひたすら「NO」と言えない自分を呪った

7/10/2025, 7:38:57 PM