薄墨

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虹のカケラが落ちていた。
半円型の、よくある🌈こんなやつ。

拾って、空にすかしてみる。
虹は鮮やかに屈折し、やにわにくっきりと輪郭を保ち始める。

虹のカケラを拾い集めて、一つの虹の円弧を完成させたらどうなるのだろうか。
虹の架け橋は、僕たちを見知らぬ世界へ連れて行ってくれるのだろうか。

空島には、今日も鞭の音が鳴り響いている。
僕ら地上を知らない天上民は、今日も、地上を循環した経験のある土民たちに仕え、道具のように使われている。

地上へのご降来を賜れれば、僕たちも土民になれる。
そんな教えはあるけれど、その機会は限りなく遠いものだった。
一部の土民の子どもたち以外の子ども…僕たちは地上の知識はおろか、天上での教養さえ、身につけることはできなかったからだ。

僕たちはただ働いて、自分が天上社会の何の歯車をしているのか、どこの部品なのかさえも知らずに、ただ働いて、ただ死ぬだけだった。

そんな僕の人生の唯一の慰めといえば、それは、この世界に他ならなかった。

僕たちの現実とは裏腹に、ここはとても美しい場所だった。
僕たちの身体はいつだって、優しく五色に彩られた柔らかな地面が受け止めていてくれたし、まばゆい太陽は、いつでも僕たちを照らしてくれた。

そして、天上にはよく、虹のカケラが落ちていた。
ぼんやりと七色に輝く美しいそれは、空に透かせば、はっきりとその輪郭を保つことから、僕たちの預かり知らぬ遠い空からの落とし物とされていた。

その虹は、繋げればきっと、架け橋のようになっていて、僕たちの知らないずっと遠くの、どこかの空の、空と空と、空と地上と、空と海とを繋いでいるのだ、そういう伝説があった。

しかし、その伝説を裏付けるものは、何も見つかっていない。

虹の架け橋。
それは今や生まれながらの天上民の赤ん坊でさえ、知っている御伽話じみた伝説だ。
贄さえ知っていて、ただの伝説だ、と笑い飛ばすような。

虹のカケラは、空にくっきりと輪郭を保つ。
いつもなら鼻で笑って、投げ捨てているはずなのに、なぜだろう。
なぜだか、今日に限ってそれは、紛れもない現実の希望のような気がして、僕はカケラをポケットにしまった。

遠くで鞭の音が聞こえる。
近づいてくる。
僕は歩き出す。
僕の現実へ。

9/21/2025, 10:47:01 PM