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#星座


「先輩は絶対カラス座です」

部室で私物を片付けていると、後から入ってきた後輩が部屋に入るなり僕にそう言った。

「牡羊座ですけど。ていうか、カラス座って何? 映画館?」
「私の作った新しい星座占いです」

そう言うと後輩は、部室の真ん中のテーブルに一枚の巨大なポスターを広げ始めた。
後輩は背が低いので、大きなポスターを広げるのに机の横に回ったりと一生懸命である。ちょこまかと動く彼女は見ていて飽きなかったが、少し不憫になってきたので彼女の横から手を伸ばして手伝う。

「あ、ありがとうございます」
「よくこんな大きなポスター持ってきたね」
「これしか黄道帯が書いてある星図がなかったんですよ」

長い栗色の髪の毛を片手で後ろにやると、彼女は誇らしげに胸を張った。150センチの彼女はセーラー服を着てなければ子供みたいに見える。

「見てください。これが太陽が通る道、黄道帯です」

黒い夜空のポスターに淡い白い帯が描かれていた。多分あれが黄道帯ってやつなのだろう。彼女はその上に位置する星座を指差すと名前を順に読み上げていく。

「牡羊座でしょ。カラス座、牡牛座、コップ座に双子座…」
「待て待て待て」
「あっ! ちょ、ちょっと!」

僕は彼女の手を取って制止する。

「カラス座とかコップ座とか、星座占いに無いだろう?」
「ふふ、それはですね」

何故か得意気に鼻をならすと、彼女は講釈を始めた。

「12星座というのは古代バビロニア人が黄道帯から勝手にチョイスしたものなんです」
「勝手に…?」
「一年が12か月というのを先に決めた彼らは、黄道帯から12個の星座しか選ばなかったそうです。だから本当は――」

彼女はポスターに赤いマーカーで星座に丸を付けていく。

「ここにある星座も占いに使われるはずなんです。先輩の誕生日は4月15日ですよね? なのでそこを太陽が通過するタイミングはカラス座になるんです」
「…そ、そうか」
「ちなみにカラス座の人の性格、聞きたいですか?」

星みたいにキラキラした目で、彼女はポケットから取り出したメモ帳を開いてこっちを見てる。これは逃げられない流れだ、と僕は思った。

「ここで聞かないという選択肢は――」
「いいでしょう! 教えます! カラス座の性格は、ズバリ嘘つきです!」
「…え?」

きっと今の僕は豆鉄砲をくらった鳩、いやカラスのような顔をしているに違いない。

「そうかな? 割と正直な方だと思うんだけど」
「むむむ。その自信! 牡羊座の皮を被ってますね! 先輩はそんな人じゃないはずです」

そう言うと、後輩は部室の窓ガラスの前に立った。腕を後ろに組んで、教師のように外を眺めている。探偵かなにかのつもりだろうか。

「私は先輩は嘘つきだということを知っています。根拠だってあります」
「例えば?」
「例のハリウッド映画、公開日を一週間も誤魔化しましたね?」
「あれは単に覚え間違っていただけなんだが」

反論すると、彼女はやれやれといった具合で首を横に振る。

「では、期末テストの数学で満点をとったというのは?」
「うっ……」

そこを突かれると確かに痛い。満点を見越して彼女と備品買い出し係をかけて賭けをしたことがあった。結局バレて買い出しには付き合うことになったけど。

「認めましたね!」
「ま、まああれは悪かったよ」
「いいんです。じゃあ――」

彼女が振り返る。彼女は――泣いていた。

「転校するの、嘘だって言ってくださいよ」



10/6/2023, 11:39:18 PM