「無垢(むく)と、無垢(むアカ)、頑張ってこじつければ2通りの読みができると言い張りたい」
自然の木をそのまま切り出した加工をしていない木材のことを「無垢材」と言うのか。某所在住物書きは「無垢」のサジェストに目を通した。
金無垢なる言葉もあるらしい。時計用語のようだ。
「金無垢、無垢材、アカ無し、御無垢(おむく)。
元々は仏教用語なんだな。……で?」
純潔ならひとり、もうサ終したソシャゲだけど、「そう来るか」ってのがいたわ。 物書きはネット検索を終了し、過去のスクショ倉庫に目を向ける。
「……ところで無垢と純粋の違いって?」
最終的にお題そっちのけ。いつもの展開である。
――――――
某呟きックスで早朝、ほんの少しの間だけ、妙な投稿がバズって、なぜかすぐ消えた。
それは要約すると、こんな話題だった。
中国の某所。ひとつ、あるいは複数のビル。
不動産の不況で建設や開発が数年前から放棄されてるのに、何故か日に日に高くなり続けてるらしい。
霊能力者が中を調査すると、そこには多くの欲望、可能性、亡霊、幻影が残っていて、
物理法則に干渉可能なほど強力な個体ばかり。
「増築」部分の「見た目『は』」純粋な無垢材。
見た目通りの木材でも、金属でも、石材でもなく、未知の物質なのだとか。
「完成」すれば亡霊や幻影は消え、欲望や可能性は歪曲、変質、変異する。その後は分からない。
増築や完成を阻止するには、欲浅く無垢に近い魂魄の持ち主の大声が必要だという。
で、
その中国某所の某ビルと同じ物が都内にあり
○区△町×丁目××にある■って名前の廃ビルだと。
そりゃ野次馬も撮りたがりも配信者も来るよね。
書かれてた住所がそこそこ近所だったから、職場で長いこと一緒に仕事してる先輩を引っ連れて、一緒にその廃ビルに行ってみた。
「何故私を?」
「だって先輩、無垢オブ無垢だもん。誠実で優しい、純粋、お人好し。なにより呟きの垢無し」
「『無垢(むアカ)』しか合っていない」
「先輩は『無垢(むく)』でしょ……?」
「どこが?」
「いや、『無垢』でしょ……」
「だから、どこが」
さすが、すぐ削除されたとはいえ、万バズ投稿。
実在する住所の廃ビルに集結した人は、男性も女性もその他も、老いも若きも、なんなら小学生くらいの子まで、みんなスマホをボロいビルに向けてる。
我こそが「無垢に近い魂の持ち主だ」と自慢したい少年少女、紳士淑女が、騒ぎに騒いでた。
道路を隔てて向かい側には、報道陣や警察車両も、数台だけ、チラホラ見える。
きっと今日の、それか来週の月曜のニュースで、小さく報道されるんだろう。
「増築と完成を阻止するには、無垢な魂を持った人の大声が必要なんだってさ」
「本気で信じているのか、その例の投稿のこと?」
「全然。でも先輩、大声出してみてよ」
「ことわる。近所迷惑だ」
「そんなこといわずに。それ!こちょこちょ!」
「わっ!よせ、やめろ!」
ソレこちょこちょ、おいヤメロ。
万バズの招いた人だかりを十分堪能して、私と先輩はその後、近くのカフェでコーヒーやらケーキやら飲み食いして別れた。
帰宅途中で先輩のアパート近くの稲荷神社の、神職さんと子狐くんを見た気がするけど、気のせいだったか事実だったか、よく分からない。
投稿と騒動の標的にされた廃ビルは、後日、「倒壊のおそれアリ」ってことでバリケードが設置されて、重機による解体作業が始まったけど、
結局、無垢な魂がどうとかこうとか、廃ビルが謎の増築とかの、妙な投稿の元ネタも元凶も、言い出しっぺも完全に闇の中。
ほんの数時間ネットを賑わせて、ほんの数十分警察と報道と私達を動かして、少し動画やら写真やらでスマホの容量を圧迫して、それだけ。
全部全部、最終的に皆の記憶から忘れ去られて、それっきりで終わった。
6/1/2024, 6:24:07 AM