『好きじゃないのに』
小説を書くのなんか、好きじゃない。
文章を書くのは楽しいけれど、私にとって小説を書くのは身を切るような苦しみと倒錯的な快感の連続だ。
そんなものに身を委ねるのは、好きじゃない。
心の中の世界を丁寧に文章へと切り出していく作業は、私の精神と体力と魂のひとかけらを贄にした儀式のようである。
そんなにしたって、自分の思ったようなものが書けるわけではない。何もかもが届かない。
文章を書くのは、好きなのに。
この頭の中にしかない風景、情景、世界を、私の言葉ひとつを依り代に現世へと誕生させることは、どうしてこんなにも苦痛と輝きに満ちているんだろう。
好きじゃないのに。
それでも懲りずに私はまた、ふらりと書き始める。
3/27/2023, 12:09:28 PM