その男は、ある日突然店にふらっとやって来た
表に貼られた求人広告を見たらしい
「3ヵ月だけ働きたい」と言う
見るからにやる気の無さそうな、掴み所の無さそうな、まるで生気を感じさせない雰囲気が、かえって強烈な個性となって彼を包んでいた
私のポリシーからはおよそかけ離れた彼を、今までの私なら
「ごめんなさ、丁度決まったところなの」
とやんわり断っていただろう
でも、ひょろっと背の高い彼に見下ろされ、その顔の半分は覆っていそうな前髪の奥にある彼のその瞳に強く惹かれるものがあった
色彩をほぼ感じさせない暗い瞳だったが、どこまでも澄み渡るようなその眼差しが私の嘘を見透かしているようで、私は言葉を詰まらせた
次の瞬間頭とは真逆の言葉が口を突いて出た
「今日から働いて」
この瞬間、私と彼との激しい刹那的な恋が始まっていた
フィロ
4/28/2024, 9:42:58 PM