ことり、

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月夜


「私、月光浴が習慣よ〜」
会社のスピ先こと、
スピリチュアルにハマっている先輩お局は、うっとりとのたまった。
私の周りに三、四人いた同僚は、
ちょっとお手洗いに〜、とささっと
はけてゆく。しまった、壁際だ、捕まった。
「げ、ゲッコウヨクって…?」
別に聞きたくはないが、
社会人として流れを読む。
スピ先は、キラキラのスピのオーラを
漂わせながら言う。
「そう〜、満月の夜に、月の光を浴びると、リラックス効果があるらしいのよ〜。
パワーストーンを浄化したりね〜、
かのクレオパトラも月光浴したのよ〜」
薬事法に違反しない程度に、
あるらしい、と言いつつ、
パワーストーン、浄化、クレオパトラ、と、なかなかのパワーワードを吐く。
スピ先自体、年齢不詳独身、
この課の生き字引、かつて同期に、
カタカムナとかいう古代文字で書かれた
ラブレターを送りつけ、
「呪いの文書」としてパワハラ係に
調査され、ラブレターは課の金庫に
仕舞われたという猛者、
ある種の特級呪物である。
「あとね〜、町外れの住宅街の中に、
英国風の月光浴カフェがあるらしいわ〜。
満月の夜しか開店せず、眼帯をつけた隻眼の
イケメンが一人で経営してるらしいわあ〜」
「え…」ピクッと反応してしまった。
私の中のオタク女子、厨二病気質が疼く…!
「あ、興味ある〜?
今日満月だし、良かったら〜」
「あっスミマセンッ、
今日までの資料まとめが!」
よし、今度は逃げられた。

懐かしいチャイム。
うちの会社の古めかしい、終業の音だ。
スピ先に捕まらないように、
私急いでますモードで会社を出る。
と言っても実際は急いでなどいない。
いないのだが。
月光浴カフェが気になる。
出たばかりの満月に照らされながら、
住宅街を彷徨いますか…。
あわよくば、イケメンと月光に癒されよう。
あ、でもスピ先に会う可能性があるのか…汗

3/8/2024, 5:50:27 AM