『バイバイ』
「じゃあね、ばいばい!」
ふんわりとしたハーフツインを弾ませて、彼女が私に手を振る。
「は、はい。さようなら」
彼女はにっこりと笑うが、その後に少し表情を曇らせる。
「……やっぱり、ばいばいじゃなくて、またねの方が良いよね」
そう言って彼女は、いつ死んじゃうか分かんないお仕事だから、と消え入りそうな小さい声で付け足した。
彼女がそう言った理由は、すぐに分かった。
この間、私たちの仲間が死んだからだ。
しかも三人、立て続けに。
その中には、彼女が片想いをしていた相手もいた。
彼女は変わらず気丈に振る舞っていたが、内心では相当辛かったと思う。
関わりの浅かった私だってショックを受けたのだから。
でも、仕事柄仕方ないことは分かっている。
彼らだって、こうなる覚悟があったから戦闘員になったのだろう。私も死ぬ覚悟はある。
しかし、彼女が死ぬというのなら話は別だ。
彼女を失うのだけは嫌だ。
「……そうですね。またねにしましょう」
彼女がふふっと微笑む。
「うん。またねっ」
「またね」
***
私は冷たい床に膝をついて、昨日のことを思い出していた。
目の前には、白い布を被った彼女がいる。
遺体は激しく損傷し、両手首がなかった。
目を輝かせながら筆を握っていた彼女を思い出して、胸が締め付けられるように痛くなる。
私たちに、“また”なんてなかった。
あのまま「バイバイ」で良かったのだと、今更ながら思った。
2/1/2025, 11:55:55 AM