ななせ

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恋をすると世界が色付く、なんて嘘だ。
実際には、色を失って、その人以外は全部灰色に見える。
ホコリを被ったように重苦しい視界の中、彼だけが色彩を放つ。
きっと、神様が世界に色を付ける時、彼を初めに塗ってしまったのだ。だから、その絵の具が乾くまで、周りに色を付けることが出来ない。
ああしかし、絵の具の乾きの遅い事!
どれほど経ってもその人は、鮮やかにてらてら輝いている。不気味なほどに、美しく。
いくら神様だからって、ちょっと悠長すぎだ。コンクールの期限はそんなに長いのだろうか。
この絵の具が乾かないうちは、僕は彼を見続けるだろう。だって、白の中に朱があれば、思わずそちらに目が行くだろう?僕の場合は極彩色が、灰の中に異彩を放っているんだ。
どうしてそれを、見過ごせようか?
早くパレットに絵の具を出して。
油彩だろうが水彩だろうが、この際クレヨンだって良い。早くキャンバスに描きこんで。
もう僕の目はチカチカしてめくらになりそうなんだ
日常はどんな色だったろう
僕は彼の色しか分からなくなってしまったんだもの!湖はどんな色だったか、家の外壁は何の色だったか、今まで見えていたもの全て。
彼が奪って身に纏ってしまった!
しかも僕はそれに馴染んでさえいる。
もし彼が恋に落ちれば、彼にも同じように見えるのかしら?
少なくとも、僕の極彩色はまだ消えてくれそうにない。


お題『カラフル』

5/2/2024, 4:19:09 AM