Werewolf

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【これからも、ずっと】

「別れてほしいの」
 切り出された一言に、ああ、まぁそうなるだろうなぁ、と、青年はぼんやり考える。付き合って一年。長い方だ。
「渚くんの……あのことは、絶対誰にも言わない、から、だから」
「分かった」
 俺が声を出すと彼女はホッとしたように緊張が緩んだ。
「色々助けてもらったしね、ごめんね」
「う、うん」
 最後に、彼女の手を握って、するり、と小指にはめていた指輪を抜き取る。あっ、と声を出したが止めなかった。白い石が輝く指輪を手の中に握り込む。
「これは俺に返してね。じゃあ、さよなら」
「うん、じゃあ……」
 そう言って、ミニスカートを翻して彼女は走り去ってしまった。
「はぁ……」
 と、青年、渚は溜息を吐いて頭を抑えた。

 渚は大学内で最もモテるといっても間違いがないほどモテる。女は勿論だが、男にも好かれる。中には体の付き合いに至ったものがいるなどと噂があるほど、とにかく美しい顔をしている。
 しかし「恋人」は短ければ二週間、長くても今回くらい、一年程度で別れている。
 渚はそっと自分の首筋に触れた。少し濃い目の毛が生えていて、それが見えないようにいつでも衿付きの服を着ている。
「新しい人、見つかるかなぁ」
 半ば呻くようにそう呟いて、次の講義に向かう。顔は陰鬱そのもので、ちらり、とカレンダーを見て首を横に振る。
(俺と添い遂げられる人なんて現れないんだ。こらからも、ずっと)
 全ては長らく続く家にまつわるある体質のせいであるし、父母、祖父母のことを考えればそれほど絶望的でもないのかもしれないが、それでも渚には、先の見通しなどつきはしなかった。

4/9/2023, 9:48:14 AM