どこかのだれか

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『世間』というものを全然知らない僕に、君はたくさんのことを教えてくれた。楽しいことや新しい発見、僕の見たことのない景色を、たくさん見してくれた。
そんな君が、唯一少し寂しそうに言った言葉があった。
「でも、知らない方が幸せなことだってあるんだ。まるで鳥籠のような世界さ、外は見ない方がいい」
君が唯一教えてくれなかった鳥籠の外の世界を、後の僕は嫌というほどはっきり、この目で捉えてしまう。
「知らない方が良かったですね…君の言っていた通り」
そう話した僕に、君は僕の方に振り向くことなく呟いた。
「この縛られた世の中を揶揄するにはぴったりだろう?」
夕焼け空の下、そう話す君の後ろ姿は、とてつもなく寂しそうで、風が吹いたらふと消えてしまいそうなほど儚く思えた。

7/26/2022, 8:52:33 AM