泡沫

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朝日が昇り、ピンクの花びらが空を舞った。
煌々と照りつける太陽と、真っ青な空の下、五月蝿い位の虫が鳴く真昼間。
落ちていく枯れた葉に、肌寒い風が当たって飄々と空を舞う夕焼けの時間。
光る夜空に溶けるように、白くなった息は光に照らされて消えていく帰り道。
どれもこれも、人から聞いた話でしかない。
季節の変わり目なんて、ただ寒いか暑いかだけだった。いや、それすらも、室内だと感じないか。

窓から少し匂う季節の香り。
なんて言うのか、なんて思ったのか、頭に浮かぶ前に消えてしまう。
私が唯一見えるのは、代わり映えのしない病院の庭。そこから見える木が一本、季節と共にゆっくり色を変える。でも、あれは桜では無いらしい。梅、だっけ。もう覚えてないや。

ぼんやりと空を眺める。
特に何がある訳でもない。ただそうするくらいしか無かった。
変わらない色の布団、腕に刺さったままの針、お洒落も許されない無地の服。全部、全部、私の時が止まった事を証明する道具でしか無かった。
訳も分からず、不意に、布団に水滴が落ちる。拭こうなんて思えず、ただ水滴の跡は増えていった。

窓越しの景色はぐるぐると巡っていった。それを眺めながら、私はこの日を迎えた。止まったこの空間は、動くことは無かった。憧れ、叶わないと思って見ていた雑誌も、今日で見納めだ。
あの木の花びらは散った。今では青々と葉を生い茂らせている。
手元には紙袋が一つ。真っ白で、雑誌の表紙に飾ってありそうなワンピースが入っている。
この場所は動かなくても、私は動ける。
だって──



覗いてるだけじゃ、何も見つからないから。

7/1/2021, 1:27:56 PM