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日差し…

あたり一面の野原に黄色のたんぽぽが広がっている。

スカーフを頭に巻いた母と麦わら帽子を被った姉とたんぽぽの花冠をしている私。

あぁそうか…これは幼い頃のピクニックだ。

私の父の仕事の関係で、家族で旅行に行ったことが一度もない。

長い休暇が取れない特殊な仕事のせいで、日常の休日も呼び出されたら仕事に行かなくてはならなかった。

そんなに裕福ではなかったけれど、時々近くの野原に天気のいい日はピクニックに行っていたんだ。

特別な事などない…虹色の敷物と母が作ったお弁当を籠に入れて、遊具など何もない一面の野原へ。

それでも嬉しくて、家族皆で出かけた唯一の思い出は、真夏の暑い日差しの中、脚をのんびり伸ばして座って、私には小さなおにぎりを一つ…大事そうに食べている。

写真は、父がいつも撮ってくれていた。

皆、笑っている、とても幸せな瞬間。

近くの野原や公園にしか連れていけない父は、その時、何を想っていたのかな…
ほんのひとときの、休みの昼下りまでのピクニック。

アルバムを整理していたら、はらはらとその幸せな写真が出てきて、ふわ〜っとたんぽぽの花冠の草の匂いが鼻先をよぎった。

あの時、どんな気持ちで貴重な自分の休みを割いて、ピクニックに行こう!と言ってくれたの?
どんな思いで、カメラのシャッターを切ったの?
いつも 申し訳ないな…なんて思ってたのかな?

いつか、その頃の話を聞きたかったけれどもう本人に聞くことは叶わない。

何に対してなのか、私に会うといつも『すまんな』が口癖だった父。

そんな事ないよ!
他の家みたく、旅行に行けなくても、参観日や運動会や学校の行事に来てもらえなくても、解ってたから!大変な仕事をしているのも!

私には充分、時々一緒に出かけられるのが嬉しかった。楽しかった。

大人になったら、一緒に今度は私があちこち連れて行ってあげたかったんだよね。

旅行じゃなくても、近所で一緒にお酒も飲みたかったな。

ごめんね。叶わなかった事が多すぎて、後悔ばかりだけれど、夏が来たら思い出すんだよね。

夏に 向こうの世界へ旅立ってしまった父の事も、
見上げることが出来ないくらい日差しが強かった
あの 野原に連れて行ってくれたピクニックの事も、写真がなくなってしまっても、もう 私の中にしまっているから…

今は 手をかざして眩しい日差しを見上げて伝えるね。

お父さん いつも、ありがとう…
私はずーっと 幸せだったよ



*読んで下さり ありがとうございます*



7/2/2023, 1:33:29 PM