「行くかぁ、夏の忘れ物を探しに」
「……は?」
二学期の始業式から帰ってきてそうめんを食べ終えた中二の弟がそう言った時、ついに頭がイカれてしまったのかと思った。
今日から9月とはいえ、外気温は35℃を超えている。
残暑と言うには暑すぎる。というかまだ夏だろうと思わなくもない。今日が8月32日と言われても驚かないぞ私は。
それはともかく、弟はいつものカバンに財布とお茶を入れて外出の準備をしている。
私はそんな弟におそるおそる声をかけた。
「えっと……どこ行くの?」
「ん? 夏の忘れ物を探しに」
「ごめん意味がわからない。私にわかる言葉で言って」
弟は腕組みして何か考えた後、何か言葉が見つかったのか少し嬉しそうな顔をして口を開いた。
「セミとかカブトムシとかひまわりとか、夏といえば! みたいなものを探してくる」
「……探して、どうするの?」
「んー……今日から秋だよって教える?」
「なんで私に聞くのよ。というか外めちゃくちゃ暑いんだから秋って言っても信じないわよきっと」
「そうかもしれないけど、夏が忘れていったんだからちゃんと教えなきゃダメだと思うんだよね」
弟の言い分に首を傾げていると弟は「いってきまーす」と元気よく外へ出ていった。
残された私は弟の意味のわからない言葉を反芻しつつ、これが中二病か……? と頭を抱える。
「なんか想像してたのと違うんだけど……」
まあでも、痛々しいファッションとかこっ恥ずかしい言動とかじゃなくて良かった……のかな?
それはそれとしてしばらくは弟の言葉を翻訳しないといけないのかぁ……
9/1/2025, 2:26:04 PM