▼ カレンダー
日付すら左程気にしないタチではあるが、季節の変わり目くらいには気付く
気温や街の外観の変化、空気
肌寒さを感じる季節になると、妹がキッチンに籠る
『出来上がるまで見ちゃだめっ』
どんなものでも気持ちがこもっているのが嬉しくて、つい顔を綻ばせてしまう
それも、今年はない
端末のカレンダーを見て、思い出に浸っていると。
背後から軽快な電子音。
ドアホンに映るのは見知った顔。
呆気に取られている間に、反応がないのを不審に思ったのか何度も鳴らされる。
慌てて解錠をして玄関へ向かった。
「テメェッ、何べん鳴らすんだ!つか、何しに」
「誕生日、」
「あ?」
「おめでとう、×××」
ビニール袋一杯に入っている缶ビールを渡されて、ぐっと息を呑む。
いくらなんでもここで追い返す程無情ではない。
渋々中へ通して、何となく、警戒をしながらキッチンへ入る。
「相変わらず殺風景だな。空間が勿体ねぇっつーか」
「ケチつけてんじゃねぇ。酒だけか、コレ」
仕方なく肴を用意して、ふともてなしてる自分に気付く。
(違う。絆されてる訳じゃねぇ。好意なんだ仕方ねぇ、仕方、)
意識を飛ばしていたせいか背後に気配を感じるのが遅れて、反射的に睨み付けた。
「カレンダーに丸付けて、今日を待ってた」
(何の為に)
答えは声にならなかった。
9/12/2023, 8:05:33 AM