─窓越しに見えるのは─
山の中にある、病棟の奥。
二階には三角の窓があり、いつも光が入っている。
太陽の光、月の光。どちらも明るすぎて、不気味と感じる程。
そしてその窓越しに見えるのは、いつも笑う彼。
彼はいつも夜中になっては、小さな声で呟く。
『僕は此処でヒーローになったなぁ。懐かしい。』そう言って笑う。
何故かは分からない。何で笑うのかも、何もかも分からない。
きっと彼を他の人が見たら、間違いなく通報するだろう。
まぁ、他の病人が居ればの話だが。
この病棟には、私以外誰も居ない。否、居なくなった。
ある人のせいで、病人も看護師も医者も全て殺された。
私もその人に殺された。そして私は殺される寸前、その人の顔を見た。
月の光に照らされた、いつも窓から見える笑う彼だった。
今考えれば、彼の言うことが分かる気がする。
此処は精神病棟。皆、死にたがりだった。
彼は何処も可笑しくない、誠実な人だった。否、そう見えた。
だからそんな彼に、助けを求めた。
『殺してくれ。』『生きているだけで辛いんだ。』と。
優しい彼は、願いを聞いた。そして、それを実行した。
でも彼は、助けを求められた時には狂っていた。
『誰かに認めて貰いたい、頼られたい』と。
そんな彼がとった行動は、正しかったのだろうか。
7/1/2023, 11:24:51 PM