つつも

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【優しさ】

僕の職場には細かいことに気が行く女性がいる。同僚のために必要な資料を準備したり、体調が悪い人を見つけると声をかけてさりげなく手伝ったり。誰もが嫌なことは率先してやっていた。

しかし、僕はそんな彼女の様子がだんだんおかしくなっていくことになかなか気づけなかった。

僕が変化に気づいたのは年の暮れ頃だろうか、軽く腕を振るう感じで自身の足を叩いていた。だけど普段と変わらず同僚と話したり業務も変わりなくこなしている。
そんな様子から気にも留めなかったが、ある時彼女の独り言が聞こえてきた。
「あー、イライラする」
その言葉にびっくりした僕は、試しに何気ない会話を振ってみた。
彼女の様子は普段と変わりない。いつも通りの笑顔で僕に接してくれたが、一人の時はため息が多く顔つきが険しいことにようやく気がついた。

それから彼女を見ていると、あることが分かった。
普段気を利かせて同僚たちのサポートをしている彼女だが、同僚たちはそれに気がついていながら感謝を述べることがないのだ。

ある時残業で彼女と二人で作業をしていた。
僕は彼女に普段の行いに感謝していることを伝えると、彼女の目からは涙が溢れ、泣き出してしまった。彼女は言った。
「最近訳もなくイライラすることが多くて、だけど何となく気持ちが軽くなった気がします。ありがとうございます」
「自分を大切にすることも大事だよ」
僕が言えたことではないかもしれないが、それでも少しでも慰めになればと彼女に告げる。

別に見返りを求めてやってた訳では無いだろう。だけど、感謝の気持ちを伝えないと誰でもいつかは壊れてしまう。
これからは、僕も少しは周りに気を配ってみようと心がけることにした。

1/27/2024, 3:02:07 PM