作家志望の高校生

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夢を見た。それはリアルな夢だった。夢にありがちなな意味不明でふわふわとした世界観ではなかった。ある一点を除いて、現実世界からほとんど逸脱していない。けれど、確実に現実ではない世界。そんな夢を見ていた。
学校からの帰り道、あえて道路から外れて草むらを踏みしめる。隣を歩いていたはずのアイツは、どこかで見つけたらしいアマガエルに夢中になっている。
「ねー!コイツめっちゃかわいい!」
なんて手に乗せてつついてはケラケラ笑っていた。もう高校生にもなるのに、テンションが小学生すぎて思わず笑ってしまった。変なツボに入ったのか、段々笑いが深まっていく俺を見て、アイツが若干不服そうな顔をしている。早く機嫌を取らないと後が面倒だが、生憎笑いが収まる気配はまだ無かった。
しばらくしてようやく笑いが収まると、また2人で歩き出した。途中にあるコンビニで適当に菓子パンを奢ってやって機嫌を取って、ホットスナックの誘惑に負けて2人してコロッケをかじる。本当にくだらなくて、本当にどうでもいい日常の風景だ。
家に着いて、その後の予定をグダグダと話す。別に何をするでも無いが、この後も2人でいることは確定していた。親友以上恋人未満のような関係が心地よすぎて、その先に踏み込むのが怖かった。
家の中、ベッドにもたれ掛かって床に座る。真隣に座るアイツの体温を感じた瞬間、目が覚めた。
そこにあるのは、ひとりぶんの体温と、手先に触れる冷えたシーツだけ。アイツの影はとうに塗り潰されて見えなくなっていた。
乾いた笑いが零れた。高校生のアイツなんて存在しないのに。馬鹿みたいに幻想に縋って、あり得ないもしもを願いすぎて、遂に夢にまで見てしまった。あんな幸せなifを、俺が見ていいわけがない。
中学生の時に死んだアイツは、俺が殺したようなものだった。本当は、アイツの家族がネグレクトをしていたことを知っていた。知っていて、無視した。関係が崩れるのが怖かった。ずっと俺に依存していてほしかった。純粋無垢で何も知らなかったアイツを、無垢なまま歪めたのは俺だ。
この罪に汚れた手では、アイツと普通に笑い合えるような、ありふれた、しかし幸せなパラレルワールドを描くことさえ許されない。
瞼に焼き付いた残夢が、雫になって温もりを失ったシーツに染み込んでいった。

テーマ:パラレルワールド

9/26/2025, 2:24:18 AM