シオン

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「プレゼントっていいよね」
 演奏者くんの話はいつもいつも突拍子もない。さっきまで演奏してくれた曲について話してくれてたというのに、なんだ急に。
「…………どういうこと」
「誰かが自分のこと考えて選んでくれたという事実がいい」
「………………欲しいってこと?」
「くれるなら」
 いつも一呼吸だけ間を開けるのに急に即答してきた。なんなんだ、本当に。
「……でも、なんもないよ」
「どういうことだい?」
「あんまりユートピアには物ないから、プレゼントって言えるもの、用意できないかも」
「…………ああ、その話か」
 ボクはわりと真剣にそのことを出したというのに、他愛もない話のように扱われると少しだけムッとする。
「形のないものが欲しい。……どっちかっていうと」
「形のないもの……?」
 形がないものというと、思い出とか経験とかってことなのか…………?
「……形あるものだとさ、いつか壊れたり無くなったり、そこまでいかなくても劣化する。きみから貰ったものが色褪せるのは嫌だから」
「…………分かった。すぐには思いつかないかもだけど、きっと渡すよ、プレゼント」
「楽しみに待ってる」
 彼はそう言って笑った。あんまり彼が見せることがない無邪気な笑顔だった。

9/25/2024, 12:16:30 AM