もんぷ

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君と見上げる月…🌙

 すっかり日も落ちて暗さを増した歩道を歩く。仕事帰りの脳は開放感と共に怠さを示していて自然と足が重くなる。ただそれでも歩くことができているのは、自分よりも歩幅の小さい右の人に合わせてゆったりしたペースで進んでいるからであろう。
「あ、見て。月。」
「…ん。ほんとだ。」
普段空なんて見上げないから三日月なんて久々に見た。天候で空気が澄んでいるからかはっきりと見える。自分の方が空に目線は近いのに、全く気が付かなかった。さて、月が見えると言われたからといって何て言えば良いのだろうか。生憎月を見ても月だなーと思うくらいの感性しか持ち合わせていない。昔の人は月が綺麗だとかいうだけで告白できるとか言うけど普通になんでだろ。月が綺麗だからってなんだ。誰といたって月は綺麗なんじゃないか?というかそもそも月って綺麗か?なんて言えばこの小さいのによく喋る人にムードも何も無いと怒られてしまうだろう。
「…月が綺麗ですね。」
月が綺麗だとは思っていなくても、その奥に潜む想いは一緒だから。こんな疲れた時くらい素直になってもいいだろう。なんて思った俺が馬鹿だったのか。
「ね!めっちゃ綺麗ー!」
ただの世間話だと捉えた右隣の人はご機嫌そうに声を弾ませていた。こっちはこんな柄にもないクソ恥ずかしいことしたのにまさか伝わらないなんて。顔の赤さを隠しつつ、ただ月を見ながら一緒に歩くだけで満面の笑みを見せる横の人を見てまあいいかと思い直した。

9/15/2025, 9:35:09 AM