とげねこ

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ざざざ…
「これは?」
チチュンは隣に座る初老の女性に、いま流された三次元情報についてたずねた。
一枚の葉が、枯れ木から離れ、暫く虚空を漂ったのち、水溜りに落ちる。水面には既に幾枚かの葉が層を重ね、水溜まりの縁に集まり、先程落ちた葉もそこに集まろうとしており、葉で隠れていない部分はそよそよと薄い波紋が無数にたっている。
そんな、一連の映像だった。
「これはね、〝かぜ〟を映したものね。貴方はこれにどんな感想を持った?」
「かぜ?葉っぱや水じゃなくて?」ううん、と唸って「水に落ちるまで時間がかかったのは、枯葉が軽いからかな」
女性は確かにそうね、と「私は、とても寒そうで、木々や葉の音がたくさん聞こえているんだろうな。と感じたわ」
「ええ?それは嘘だよ。無音映像だし、暑いか寒いかなんて分かるわけがないよ」
チチュンの声には疑いと批判の色が混ざっていた。
「そうね。もちろん。本当はわからないけど、人は、今までの経験してきた事から、こうかな?ああかな?と想像してしまうものなの」
「ふうん?僕もメモリが溜まってきたらそう思うようになるの?」
女性はチチュンに、「そう、なるだろうな、と思っている」とふわりとした笑顔を向けた。
チチュンは女性の笑顔が好きだった。
「それも、経験から思うの?」
女性は首を振る。
「これは…祈りかな。二人が健やかに過ごして欲しいという、祈りよ」
「ふうん?」
ざざざ…

懐かしい、昔日の思い出。大切なメモリ。
眼を覚ましたチチュンに一瞬纏うように、びゅうと〝かぜ〟が吹く。
-今日は寒くなりそうだな。
チチュンは風が吹いた方向に向かって、よいしょと歩き出した。

1/17/2024, 2:58:39 PM